ドリームタイム

 佐野キリコ『ドリームタイム 野外劇団楽市楽座 明日を占う投げ銭の旅』(藤工作所)
 キリコの文章には力がある。引き込まれる。
 家族に共通していることは、自らが楽しむこと。萌は「九歳から学校にも行かずろくに勉強もしてないけれど、十二年間の旅生活のおかげで、人生の面白がり方を知ることができた」。長山は「小さく、場末で生きることにこそ希望がある。私たち自身が希望だ。いかに楽しく生きるか、そこにしか希望はない」。
 私は歯も眼も弱まった。朝のラジオ体操で1,2,3,4と両足跳びはまだできる。が、そのあと5,6の開脚、閉脚がままならなくなった。衰えを身に受ける。これが生きていることと言い聞かす。ラジオ体操をおえて、陸上競技場を見下ろす柵に肘をつく。「日本の昔ばなし」のひとつをからだに入れようとする。この前は、ポールに旗を掲げる警備の人に声をかけられた。「どっかで発表するん?」「いや、好きでやってるんや」。これでいい。
 この『ドリームタイム』には、長山現の代表作品である『金魚姫と蛇ダンディー』台本が載っている。ト書き〈去っていくダンゴムシに、サソリがはんてんをかけてやりました。ダンゴムシは振り返ってにっこり微笑み、去っていきました〉。イキモノの生き死に、このようであればこそ。
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